「何っ!?サユリの乗った船がモンスターに襲われ沈没しただと!?」
サユリの乗った船がリヒテンラーデに着いたという報が未だ入って来ず、ラインハルトは焦燥感に苛まれていた。そんな中ラインハルトの元へ突如伝えられた、サユリの乗った船沈没の凶報。その予想だにしなかった事態に、ラインハルトは焦りを通り越した動揺の毛色を見せた。
「それで、サユリの安否は…?」
「それが…辛うじてミュルスまで帰還出来た者の中には、サユリ様は含まれておりませんでした…」
「そうか…。よし、大至急捜索隊を編成し、沈没した海域及び周辺の港町を徹底的に捜索せよ!」
サユリの安否が不明な事にラインハルトは一瞬落胆を見せたが、すぐに気を落ち着かせ、冷静に対策を命じた。
「それと、この報をキルヒアイスに伝えてくれ…」
伝達の兵に対し、ラインハルトはそう最後に伝えた。
サユリの安否が不確かな状態になったならば何よりキルヒアイスに伝えねばならない、それが友として俺がキルヒアイスにしてやれる事だ…。それに何より自分自身自らサユリの捜索を行いたい、しかし領主である自分が下手にこの新無憂宮を離れる訳には行かない。だからキルヒアイス、俺の代わりに何としてでもサユリを見つけ出してくれ…。
そうラインハルトは胸のペンダントを握りながらキルヒアイスに想いを託した。
(しかしこうなると、あの柳也の話は真実味を増して来るな…)
過日サユリ達に招かれたイーストガード柳也が西方に来た理由、それはアビスゲートの復活にあるとの話だった。
その話を聞いた当初、ラインハルトは柳也の言に半信半疑だった。しかし、こうして現に今まで特にモンスター襲来に苛まれなかった海域でモンスターの襲撃を受けた。それは柳也の言ったアビスゲートの復活が関連しているのではないかと、ラインハルトは考えた。
(さて…真に領民の平穏を考えれば、アビスゲートの封印も政策の範疇に入れねばならぬな…)
今回のような事件がそう何度も起きれば、それを黙視している訳には行かない。多くの領民を抱える者としては、然るべき態度を取らねばならないだろう。
しかしそう思うものの、アビスゲートの復活はともかく、それを封印するとなると流石に現実感を感じられなかった。
とりあえず今はサユリの捜索を考えるべきだと思い、ラインハルトは思考を元に戻し、持てる采配能力をサユリの捜索へと駆使し始めた。
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SaGa−14「二人のジャム」
「申し訳ありませんユウイチさん、店の仕事を手伝っていただきまして」
「別に構わないですよ、アキコさん。商談がまとまるまで時間が掛かりそうですし、かといってじっとしているってのも性に合わないんで」
取引先の相手が返事を出すまでの間、ユウイチは暫くアキコの世話を受ける事にした。アキコはユウイチの願い出をすんなりと了承し、ユウイチの方もただ世話になるだけだと気が引けるからと、アキコの経営する酒場の手伝いをしていた。
「それよりもアキコさん。顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「ええ、何ともありませんわよ」
自分の体調を気遣うユウイチにアキコは笑顔で返したが、ユウイチにはアキコが無理に仕事を続けているようにしか見えなかった。
「アキコさん、三番テーブルに運んで来ました」
「はい、ごくろうさま、シオリちゃん」
ユウイチが留まるなら自分も留まると、シオリも姉のカオリと共にフェザーンに滞在していた。当初は宿に身を置く予定だったが、アキコが快く姉妹二人とも向かい入れてくれた。
「はい、ユウイチ君。六番テーブルの食器類を運んで来たわ」
「お、サンキューカオリ」
ユウイチは食器洗い全般を、カオリとシオリはウェイトレスを担っていた。ユウイチは元々こういった事が得意で器用に仕事をこなし、カオリとシオリも慣れないながら頑張って働いていた。
「ネエちゃん、こっちのテーブルにウイスキーボトルで二杯運んで来てくれ」
「はい、今持ってくわ」
酒場は昨日から美人姉妹が手伝いに入ったとの噂が噂を呼び、大賑わいを見せていた。そんな感じにいつもより店は大盛況で、ユウイチ達が加わって仕事の手間が省ける所か、反って大変さを増していた。
「ところでユウイチさん。私の制服姿、どうですか?」
カオリが運んで来た食器類を洗い始めたユウイチに、シオリが自分の制服姿を訊ねて来た。酒場の制服は女の子なら誰でも着てみたいと思う可愛らしいデザインのメイド服であり、そのメイド服の自分をユウイチはどう思うかと、シオリは内心ドキドキしながら訊ねた。
「そうだな…ムネが少し足りないかな?」
「も〜う、そんな事いうユウイチさん嫌いです!」
「ハハッ、悪い悪い。よく似合ってて可愛いぜ、シオリ」
「ユウイチさん…可愛いって言って下さってどうもありがとうございます…。私、嬉しいです……」
ユウイチに可愛いと言われたシオリは、顔を赤らめながら暫しその場に硬直した。
ムネが足りないと言うのも本心だが、可愛いのも本心だ。客が寄り付くのも無理はないとユウイチは思った。
「ねえ、ユウイチ。私は似合っているかな?」
「お前もシオリ程じゃないが、もう少しムネが欲しい所だな」
「う〜っ」
シオリに続くようにナユキもユウイチに自分の制服姿を訊ねたが、ユウイチは冗談しか答えなかった。ナユキの制服姿も正直悪くはないとユウイチは思っているが、親戚のナユキに可愛いというのも何だが気恥ずかしいものがあるので、冗談で受け流した。
「ガタッ…」
「お母さん!」
「アキコさん!」
他愛ない会話が続き、辺りに生温かい風が吹いていた場は、一瞬にして空気の色が変わった。突然何かが崩れ去る音がしその音の先に視線を送ると、その場には顔を青くして倒れているアキコの姿があった。
「申し訳ありません…突然倒れてしまいまして…」
「アキコさん…やっぱり……」
ユウイチの危惧は当っていた。絶えず笑顔で応待していたアキコは本来なら仕事が出来ない程体調を崩していたのだ。
「大丈夫ですから…」
すぐさま駆け付けたナユキとユウイチに笑顔で応待するアキコ。二人を心配させないと必死に健全な容態を演じている姿が、反って二人には痛々しく感じた。
「お母さん…今日はもう休んでて…。店の方は私とユウイチ達で何とかするから…」
「ナユキ…。ええ…分かったわ……」
実の娘の必死な説得に、アキコはゆっくりと立ち上がり、そして今にも倒れそうな身体を引きずりながら自らの足で自宅の方へ向かって行った。
「お母さん…無理し過ぎなんだよ……」
ナユキは分かっていた。アキコが身体に無理をきたしてまで人に正体を悟られないように戦っている事を……。
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「み、みんな、き、聞いてくれ!このフェザーンは自由の町だ。ルビンスキー商会の町じゃない。それに、奴等は聖王様が禁じた麻薬の取引もやっているし、モンスターとも手を組んでいるんだ!」
時を同じくして、フェザーンの街の中心に位置する広場では、一人の青年が大声で高らかとルビンスキー商会を糾弾していた。その声に街中の人々が野次馬の様に集まり出した。その声は酒場まで届き、多くの客達もその声に反応し中央広場へと次々と駆けついで行った。そしてその勢いに乗り、ユウイチ達も一人ナユキを残して広場へと向かって行った。
「ルビンスキー様に立て付くとはいい度胸だなニイちゃん!」
その声に反応する様にルビンスキー商会の手の者共が現れ、躊躇う事なく一斉に青年に襲い掛かった。
「うわっ、この、負けるものか!俺達にはミステリアス=ジャムが付いてるんだからな!!」
数人の男に囲まれ圧倒的に不利な立場になっても、青年は強気の姿勢を崩さなかった。ルビンスキー商会の者が手を出して来たなら必ずジャムが助けに来てくれる筈だ。そのジャムに対する強い信頼心が、青年に強気な態度を与え続けていた。
「……。シオリ、あの人に加勢するぞ」
「えっ!?助けたいって気持ちは分かりますけど、でもその内ジャムさんが現れて…」
人が災難にあっているのだから自分に助けられる力があるなら助けたいとシオリも思った。しかし自分にはその力はない、何より目の前の悪人を打ち倒すジャムの勇姿をこの目で見てみたいと思っていた。
「いや…今日は現れないと思う…」
「えっ…それはどうしてですか?」
「……」
シオリの疑問にユウイチは答えなかった。ユウイチはジャムの正体をほぼ掴んでいた。そしてジャムの正体が自分の予想通りの人ならば、今この場には現れないと思っていた。何故なら、ユウイチがジャムの正体だと思う人はついさっき…。
「フ〜フッフッフッフッフ……」
「誰だ!」
「天知る、地知る、ミステリアス=ジャム知る!一人の人をみんなでいじめるなんて、このミステリアス=ジャムが許さないんだよ!」
しかし、ユウイチの予想とは違い、皆々の前にジャムは姿を現わした。
「ほ〜ら、ユウイチさん。ジャムさんちゃんと助けに来ましたよ!」
自分が期待した通りジャムが現れた事に、シオリは子供の様にはしゃぎながらユウイチに話し掛けた。
「ん〜?アイツ偽者じゃないか…?」
「えっ!?どうしてそう思うんです、ユウイチさん…」
「いや…この間見た時より明らかにムネが小さい…」
「だからユウイチさん、どこ見てるんですか〜」
ユウイチにツッコミながらも、シオリ自身も微妙な違和感を感じていた。何というか、目の前のジャムはこの間見た華麗で優雅な雰囲気はなく、それこそ自分の様にジャムに憧れる女の子がジャムになりすましているかの様なイメージを抱いていた。
「死ね!ジャム!!」
一人の男がナイフを取り出し、ジャムに襲い掛かった!
「ライトニングピアスだよ!!」
「ぐああ〜」
しかし男がナイフで襲い掛かる前に、ジャムは小剣技ライトニングピアスを放った!その余りに素早い突きに男は身体中に電撃が走り、その場に気絶した。
「わぁ…」
その華麗な剣裁きにシオリの疑問は一気に吹き飛んだ。あの華麗な動きが偽者の訳ない、やっぱり目の前で戦っているジャムは本物のジャムなんだと。
「クソッ!一人一人じゃ奴の思うツボだ!一斉にやるぜ!!」
一人一人仕掛けていてはジャムに叶わないと判断し、男共は一斉に飛び掛った!
「風が運びし花の香りよ、我に立ち向かいし荒ぶる者共に暫しの安らぎを与えん!ナップ!!」
「うっ!?な、何だ、急に眠気が…」
男達が飛び掛かろうとした瞬間、ジャムは蒼龍術ナップを唱えた!辺りを包む込む甘い花の香に男達は眠気を訴え、その場に膝を着き始めた。
「す、凄いですジャムさん!術まで使えただなんて…」
華麗に剣技を振舞うだけではなく、術まで使いこなす…。自分の期待以上に勇敢に振舞うジャムに、シオリは感嘆の余り言葉を失った。
「くっ…この位で眠ってなるものか…」
「く〜」
『…………』
瞬間、その場にいた誰もが唖然とした。あろう事かジャムは自ら唱えたナップの効果により、深い深い眠りに就いていたのであった……。
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「ではこれよりミステリアス=ジャムの裁判を開始する…判決死刑!」
自ら唱えたナップにより自滅してしまったジャムは、あっさり男共に捕まった。そして街の人々が不安げに見守る中、男共による裁判という名の公開処刑が始まろうとしていた。
「ではこれより火あぶりによる処刑を開始する!」
「わたし…イチゴジャムならご飯三杯はいけるよ…く〜」
今正に処刑が開始されようとする中、当事者であるジャムは未だ深い眠りから覚めてはいなかった。もうすぐ自分が死ぬというのに一向に動じないその態度は、ある意味肝が座っていると言えた。
「いや…その前にコイツの正体を明かすのが先だな!」
処刑する前に、散々商会の邪魔をした者の正体を明かそうと、一人の男がジャムの覆面に手を掛けた。
「フフフフ…」
「!?」
しかし、その瞬間、辺りに不適な笑みが流れた。そして民家の屋根の上から広場に向かい、一人の覆面女性が華麗に舞い降りた!
「バ…バカな…ジャムがもう一人だと!?」
そう、その女性は間違いなくジャムだった。広場に現れたもう一人のジャムに辺りは騒然とした。
「残念ながら、貴方達が捕まえたのは私の一番弟子のストロベリー=ジャムです。本物のジャムは私の方ですよ!」
「クソ〜どっちが本物でも構わねえ、まとめてやっちまえ!」
「スクリュードライバー!!」
「うああ〜〜!」
ある男はミステリアスの方に向かい、ある男はストロベリーの方に火を放とうとした。その男達をミステリアス=ジャムはまとめてスクリュードライバーの風圧で吹き飛ばした。
「ご苦労様、ストロベリー=ジャム…」
「ドサッ…」
ストロベリー=ジャムを解放した瞬間、まるで事切れたかの様にミステリアス=ジャムはその場に倒れ込んだ。
「くっ、何だか知らんが今の内にやっちまえ!」
ミステリアス=ジャムが倒れたのをここぞとばかりに、立ち上がった男共は一斉に二人のジャムに襲い掛かった。
「足払い!!」
「な、何ぃ〜!?ぐわあああ〜!」
しかしその瞬間咄嗟に加勢したユウイチの槍技足払いにより、男達は再び地面に倒れ込んだ。
「大丈夫ですか、ジャム…いえ、アキコさん…」
倒れ込んだジャムを抱え込み、ユウイチはそう小声で囁いた。
「申し訳ありません…手間を取らせてしまいまして…。やはりユウイチさんの目は誤魔化せませんでしたわね……」
「ええ…。人を見抜けない様じゃ商売人は務まりませんよ」
薄々ジャムの正体に気付いていたユウイチであったが、ミステリアス=ジャムの正体がアキコだとの確証を持ったのは、偽者のジャムが現れた事だった。ミステリアスの方は素性とのギャップから確証を持てないでいたが、偽者の方は素性との違和感を感じず、その正体に確信が持てた。
そしてそれは、同時にジャムの正体の確証にも繋がった。偽者の正体はナユキ、あの独特な喋り方とどこか間が抜けている動作はナユキに間違いない。なら何故ナユキがジャムの格好をしているのか?それは本物のジャムの正体がアキコさんだからだ。アキコさんはついさっき体調不良で倒れたばかりだ、そのアキコさんに無理をさせまいとナユキがジャムに扮していたのだと。
「クソッ…先生方お願いします!」
捨て台詞を吐く様に男達は逃亡し、代わりに先生と呼ばれた魔物達がユウイチ達の前に現れた!
「やれやれ…この数だとちょっときついな…カオリ、シオリ!」
「言われなくてもこっちから加勢するわ!」
「私もです!どこまで戦えるか分かりませんが、精一杯戦います!」
十匹近くの魔物に未だ目覚めないナユキを含めた三人では不利だと思い、ユウイチは群集の方向へ向け、カオリとシオリの名を叫んだ。多くの人々が魔物の襲来に広場から逃げ出す中、二人の姉妹は果敢にもユウイチ達に加勢する事にした。
「あとはコイツだけだな…。軽く殴った程度じゃ起きそうにないし、ここは…」
未だに起きないナユキにチラッと目を向け、ユウイチは術の詠唱を始めた。
「大地に恵みを与えし神秘の水よ、その奇蹟の力にてかの者の異常を取り払わん!神秘の水!!」
「ふああ〜。何だかずっと眠っていた気分だよ…」
ユウイチの唱えた玄武術神秘の水により、深い眠りに就いていたナユキはようやく起き出した。
「おはよう、ジャムさん…」
「ふああ〜おはようだよユウイチ…。あれっ?どうして目の前にユウイチが…私さっきまでルビンスキー商会の人達と戦っていた筈なのに…?お母さんやシオリちゃん達もいるし、それに気付いたらいつのまにか魔物さん達に囲まれてるよ……」
「やれやれ…」
目覚めたものの状況がイマイチ把握し切れていないナユキに呆れながらも、ユウイチは気を取り直し、魔物共に槍の矛先を向けた。
「食らえ!二段突き!!」
「スクリュードライバー!!」
「トマホーク!!」
「私だって!イド・ブレイク!!」
「何だかよく分からないけど、ライトニングピアスだよ!!」
襲い掛かってくる魔物共に対し、五人は持てる力を振り絞って戦った。魔物共は決して弱くはなかったが、五人の力の前に次々と倒されて行った。
「これで最後です!ファイナルレター!!」
体調不良のアキコが渾身の力で小剣最強技ファイナルレターで最後の一匹にZの文字を刻み、魔物達との戦いは終わりを遂げた。
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「…ここは…?」
サユリと共に海へと飛び込み、激流の中いつのまにか気を失っていたジュンは、長い眠りから覚めた様に目を空けた。
眼前に飛び入る光、目線の先には天井があり、肌触りから自分がベッドに横たわっているのが確認出来た。
ここは何処だ…サユリ様は…?目覚めたばかりのジュンはまだ気が落ちつかない中思考を巡らした。ベッドに横たわっているという事は、自分は助かったのだ…。じゃあサユリ様は、サユリ様は無事なのか…?
今自分がいる場所より何より、ジュンにとってはサユリの身の安否が何よりだった。
「ようやく気が付いたか」
「トルネード!どうしてアンタがここに…!?」
自分に向けて放たれた第一声の方に起き上がりながら顔を向けると、そこにはあのトルネードの姿があった。
「話す事は色々あるが、とりあえずお前をここまで運んで来たのは俺だ」
そう言い終えると、ユキトは順を追ってジュンに説明し始めた。ユキトの話に寄れば、ここはリヒテンラーデの宿屋、ユキトが郊外の西の森からリヒテンラーデの街に向かった時、街中で港に流れ着いた人の話が飛び交っていた。その話のまま港に向かうと流れ着いて気を失っている人がジュンであると分かり、その足でジュンを宿屋まで運んで来たという話だった。
「そうか…ありがとな…。それよりも、流れ着いて来た人は俺の他にはいなかったか?」
ジュンはユキトに礼を述べると共に、一番重要な事を訊ねた。もし、他に流れ着いて来た人がいたとすれば、それはサユリ様だ。出来るなら流れ着いて来たと答えて欲しい、そうジュンは切に願った。
「いや、流れ着いて来たのはお前一人だけのようだった…」
しかし、その答えはジュンの期待に叶うものではなかった。心から願ったサユリの安否、その願いは一瞬にして闇の中へと葬り去られてしまった。
「そうか…。何だよ…結局俺一人だけが目的地へ着いたのかよ…畜生っ…!」
滞りない脱力感と虚無感に苛まれ、ジュンは再びベッドへと横たわった。
またか、また俺は守り通せなかったのか!強くなる、強くなるって決めた筈なのに、俺一人だけ助かったんなら何の意味もないじゃないか…!俺は無力だ…余りに無力過ぎる…クソッ…クソッ……。
サユリの身を守る為にと海に飛び込んだものの、結局助けられなかった…。自分は何も出来ず、そしてあろう事か自分だけが助かってしまった…。そのやり場のない自分に対する怒りと無力感に、ジュンは声を押し殺して泣いた。
「自分の力のなさが悔しかったら泣くだけ泣け…。お前の気持ちはよく分かるからな……」
「気持ちがよく分かる…?それはどういう意味だトルネード!」
声を押し殺して泣き続けるジュンに対し、一言呟いたユキト。その一言にジュンは涙を止め、ユキトの方を向いた。
「俺もあの時自分が護り通したい人を護り通せず、そして自分の無力さを恥じ、涙が枯果てるまで泣き続けた……」
ユキトは以前ラインハルトに語った自分の生い立ちを語った。自分が嘗てエル・ファシルに仕えていた事。そしてエル・ファシル滅亡の際、自分が護り通そうと思って護り通せなかったミスズ姫の事を。
「そうか…アンタもそんな事が…。そして今のように強くなったんだな……」
「ああ…」
もっとも、ユキトは今の自分はまだまだ未熟だと思っていた。エル・ファシルに赴く前自分が師事を受けていたあの二人の剣技と蒼龍術には遠く及ばないと…。
「ところで、これからお前はどうするつもりなんだ。その足でサユリ様を探しに行くのか?」
「いや、船が沈没したんだ、今頃その情報はローエングラムまで伝わって捜索隊が編成されてても不思議じゃない…。今の俺にサユリ様を捜し出す資格はない……。
だから、俺はアンタに付いて行こうと思う…。俺と同じ想いを抱いて強くなったアンタに付いて行けば俺も強くなれる気がする…。だからトルネード、俺をお前の旅に同行させてくれ、頼む!」
「仕方ない、付いて来るなら勝手に付いて来い」
必死に懇願するジュンに、ユキトはあっさりと答えた。先程のジュンに嘗ての自分を重ねたのもその理由だが、何よりジュンの強くなりたいという気持ちに共感を持った。
旅に対する信念は俺と同じだ。なら、その旅路を共に歩むのも悪くはないと。
「ああ!恩に着るぜトルネード!」
「一応言っておくが俺の名はユキトだ。付いてくるならトルネードじゃなくその名で呼んでくれ」
「ああ。分かったぜ」
「じゃあ早速出発だ。実は俺はこの間ある奴等に負けてしまってな、これからそいつ等との再戦に挑む所だ。俺に付いて来るという事はお前もその戦いに巻き込む事になるが、それでも構わないな!」
「構わないぜ。寧ろアンタが叶わなかった相手ってだけで燃えて来たぜ!」
「言わせておけば…」
そうしてジュンはユキトと共に旅をする決意をし、ユキトと共にキドラントへと向かって行った。
…To Be Continued
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※後書き
今回でジャムの正体が明かされた訳ですが、大方は誰だか予想が付いていたと思います。ただ、原作と違いまして本物が親の方で偽者が子の方ですので、原作にこだわっていた方は判断が付き難かったと思います。
親子逆にしたのは、単純に秋子さんに間抜け役は合わないからです(笑)。どう考えてもドジを踏むのは名雪の役目でしょう(笑)。睡眠術で自滅するなんていかにも名雪らしいドジの踏み方だと、自分で納得しながら書いていましたから(爆)。
ちなみに前回秋子さんが投げ技を使っていましたが、あれは声優ネタです。同じ皆口裕子さんが演じるヤワラちゃんから取りました。オーベルシュタインの時もそうでしたが、声優ネタは好きですので、これからもやる時はやると思います。ラインハルト様にギャッリク砲を放たせるとか(笑)。 |
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